笛吹きたち会員

第36回青山フルートインスティテュート発表会


テーマ「ふえる」

「笛吹きたち」36号文学賞

第1席、諸戸孝明さん、第2席は中村和正さん、第3席は田頭ゆかりさんが授与されました。

 

第1席

笛吹たち三十六号文学賞
第一席
諸戸 孝明様
「最近、退屈を感じている人へ」
 笛吹きたち文学賞はもういらない、それよりも「演奏賞」が欲しいと言っていたあなたはまたまた文学賞をもらうことになってしまいました。
 旅行先の3つの見聞-旭川、屋久島、鹿児島を訪ねられた話-をお奨め体験として書かれた文章は退屈を感じている人だけでなくまだ行ったことのない人には興味を抱かせるものでした。特に「人生に疑問をお持ちの方へのお奨め体験」は戦争を経験されているあなたにとっては疑問を感じずにはいられなかったことでしょう。特攻隊の若者が両親に宛てた手紙をお読みになり、ご自分のご両親に対する感謝の気持ちを素直に表した最後の締めくくりは読者の感動を誘いました。
 何故人類は戦争という愚かな行為をやめることが出来ないのでしょうか。戦争による悲惨な事実を目の当たりにしても依然として戦争が地球上から無くならないのは「大いなる疑問」です。
 戦いのエネルギーを「文学賞」よりも「演奏賞」に向けるあなたの意気込みは大いに賞賛されることです。まだ「努力賞」止まりですが「本当の演奏賞」を差し上げるときはもっと大きな賞状で差し上げます。それまでリズムとの闘いに励んでください。

 よってここに賞します。

 平成十七年十一月三日
 師匠こと 石原 利矩
 笛吹たちの会一同


第2席
笛吹たち三十六号文学賞
第二席
中村 和正様
「音楽家のための楽譜を使ったレシピ帳 壱」
暗譜することに苦労している人には今号の中村君の論文は福音書です。
この文章を読んだあるお弟子さんがレシピの通りに試してみました。その人は暗譜が大の苦手でいつも苦労していました。しかし、中村君のレシピ通りにやったところたちどころに暗譜が出来るようになったそうです。その代わりフルーツジャム、グラニュー糖、レモン、シナモン一などの費用がかさみ、おまけに楽譜を食べてしまうのでもう一冊余分に買わなければならないのでお小遣いに苦労しているそうです。そうそう、最近紙ばかり食べているので胃の調子がおかしいとこぼしていました。今や、音大でもこのレシピが出回って試験の時期になるとこれを試みる学生が増えているとのことです。中村君の文章はこんなところでもてはやされているのです。正に暗譜が苦手な人にとっては福音書と言ってもよいでしょう。
 よってここに賞します。
 というのはうそで実はこれは中村君の全くの創作です。
 この通りにすれば暗譜は克服できると説得するために様々な工夫を凝らしています。食暗記の歴史からはじまり、その効果、食用にするためのいろいろなアドヴァイスは緻密です。ここまで人を欺く文章を書けるということは並大抵の空想力、妄想力がなくては不可能なことです。
 空想力、妄想力は音楽家にとって不可欠ことです。それがなければ音楽のように何とでも解釈できることはやっていられないのですから。そう言う意味で中村君には音楽家として大成する素養があると言っていいのかどうかはまだわかりませんが、ともあれ今後の活躍を期待しています。
 よってここに賞します。

 平成十七年十一月三日
 師匠こと 石原 利矩
 笛吹たちの会一同

 


第3席

笛吹たち三十六号文学賞
第三席
田頭 ゆかり様
「生き残る力」
あなたの「生き残る力」は文学賞に輝きました。
毎回、ご家族のお話で微笑ませていただいています。
それにしても原稿の種は尽きませんね。こうやって、文学賞をもらえると言うことにあなたはご家族に感謝しないといけません。
今回は「いじめ」というテーマで二人のお嬢様が登場しました。二人ともお母さまと一緒にレッスン室に通ってくれた時期があったので他のお弟子さんとも顔なじみになっています。ある時は倒れそうになる譜面台を足で押さえながら、ある時はだっこひもをかけながら伴奏合わせに臨んだあなたの姿はいまだに目に焼き付いています。ですから文章を読んでいても手に取るように情景が想像できるのです。
子を思う母の気持ちと裏腹にそんなことは一切気にしていないお嬢様のギャップが全編に流れ、思わず笑いを誘われてしまうあなたの軽妙な筆致はみごとです。
これからもますますご家族を慈しみ、楽しい話をお聞かせください。
 よってここに賞します。

 平成十七年十一月三日
 師匠こと 石原 利矩
 笛吹たちの会一同